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誰でもよかった [読書・ミステリ]

誰でもよかった (幻冬舎文庫)

誰でもよかった (幻冬舎文庫)

  • 作者: 五十嵐 貴久
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2014/10/09
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

(今、渋谷。これから人を殺します。)

インターネットの掲示板にそう書き込んだ男は、軽トラックで
渋谷のスクランブル交差点に突っ込む。
歩行中の人々を跳ね飛ばした後に車を降り、
持参した刃物で倒れた人々にとどめを刺して回る。

死者11人、重軽傷者多数という無差別殺傷事件を引き起こした男は
交差点近くの喫茶店『ボヘミヤン』に飛び込み、
従業員と客を人質にして立て籠もってしまう。

警視庁は現場一帯を封鎖して見物人とマスコミをシャットアウトする。
さらに、SIT(Special Investigation Team:特殊事件捜査係)所属の
渡瀬博之警部補が ”交渉人” となって、犯人との対話が始まる。

やがて犯人の名は髙橋浩二、独身で無職であることが判明し、
彼の生いたちが浮かび上がってくる。

親とも没交渉、職を転々としてきた彼は、
「社会から相手にされていない」「自分は誰からも無視されている」
と思うようになっていた。

「世間の注目を集め、ワイドショーの主役になる」
あきれた動機だが、髙橋からすれば
自分の存在証明にはそれしかないと思い込んでいるのだろう。
だから殺人事件を起こした。殺す相手は「誰でもよかった」のだ。

”交渉人” からのアプローチにも、頑なにコミュニケーションを
拒否していた髙橋だが、渡瀬の粘り強い説得によって、
徐々に会話が成立していくのだが・・・

作者は、立て籠もり事件に立ち向かう ”交渉人” を描いた作品を
多く書いているのだが、本書の特徴は
インターネットが大きな役割を占めていることだろう。

髙橋が犯行前に掲示板に予告をしていたこともあるが、
『ボヘミヤン』に立て籠もった後には、
自ら新しいスレッドを立てていた。
その名も ”渋谷で人を殺したオレのスレ”。

真っ先に気づいたのは警察だったが、一般人が知るのも時間の問題だ。
警察との交渉の内容をさらけ出したりしないか、
髙橋が自分の犯行について何らかの主張をしないか、
それをみた一般人がどんな書き込みをするかも予断を許さない。

否応なく早期解解決へと追い込まれてしまった警察上層部は
交渉人である渡瀬に次々と圧力をかけてくる。
さらには、この手の籠城事件では ”禁じ手” とされる、
ある方法をあえて実行するよう強要することまで・・・

文庫で約380ページと決して短くはないのだけど、
冒頭でのスクランブル交差点での殺戮シーンから
立て籠もり事件の解決するラストまで
サスペンス溢れる展開に、ページをめくる手が止まらない。

”無差別な通り魔事件” というものが根絶されることはないだろうし
将来、さらに人心が荒廃して、この手の事件が増えていったら・・・

最後に渡瀬がたどり着く ”真相” は、かなり異常なものなのだが
全く荒唐無稽とも言い切れないのが怖いところか。


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