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蒼海館の殺人 [読書・ミステリ]

蒼海館の殺人 (講談社タイガ)

蒼海館の殺人 (講談社タイガ)

  • 作者: 阿津川辰海
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/02/16
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

高校生探偵・葛城輝義が活躍するシリーズ、第2作。

前作『紅蓮館の殺人』を解決した葛城だが、
その際に負ったトラウマのために不登校状態になってしまう。

葛城の親友・田所は、友人の三谷と共に葛城を訪ねることにする。
彼は今、両親の住む『青海館(あおみかん)』で引きこもっているという。
そこは東京から電車とバスを乗り継いで3時間かかる、
周囲を山で囲まれたY村にあった。

2人が到着したその日は葛城の祖父・惣太郎の
四十九日法要が行われていて、”葛城家の一族” が勢揃いしていた。

夫を失った祖母・ノブ子、
葛城の叔母・由美とその夫で弁護士の堂坂広臣、
叔母夫妻の息子で7歳の夏雄。

葛城の父である健次郎は政治家、母・璃々江は大学教授。
兄・正は警察官、姉・ミチルはトップモデル。

なんとも ”華麗なる一族” だが、
なぜか葛城は彼らを ”嘘つきの一族” と呼んでいた。

それに加えて、3人の ”招かれざる客” がいた。
雑誌記者でミチルの元カレでもある坂口、
夏雄の家庭教師である黒田、葛城家の主治医である丹葉。
彼らは何者かから法要への招待状を送られていたのだ。

一堂に会した面々は、和やかな雰囲気で語り合うが、
夏雄の何気ないひとことで場の空気は一変する。
「おじいちゃんは殺されたんでしょう?」

執拗にその話題にこだわる坂口。
躍起になって否定する葛城家の人々。

一方、関東地方に接近する台風によってY村付近は豪雨に見舞われ、
村を流れる川の水位が上昇を始めていた。
村から脱出できなくなった一同は青海館で一晩過ごすことになる。

Y村は、過去にも大雨によって洪水被害に見舞われた土地であり、
青海館は高台に建てられてはいるものの、
過去の最高水位は館の標高を超えてしまうらしい。

 各章の章題の下には【館まで水位○○メートル】とあって、
 刻々と洪水が迫ってくる様子も示される。

そしてその嵐のさなか、殺人事件が起こる。
正の銃殺死体が密室状態の中で発見されたのだ。

殺人はさらに続き、行方不明者まで現れるが
葛城はいっこうに立ち直りを見せず、事件はさらに混迷していく・・・

文庫で600ページを超えるという堂々のボリュームだが、
描かれるのは ”嵐の山荘” での一夜の出来事。

基本的には、視点人物である田所の一人語りで進行していくのだが
登場してくる人物はみなキャラ立ちがはっきりしていて
彼らに対する興味が途切れることなく、冗長さは感じない。

しかも、本来傍観者であるはずの田所自身もまた
事件のピースのひとつとなってしまうという、
サスペンス溢れる展開で、このあたりもなかなか面白い。

終盤にいたり、探偵として立ち直った葛城が
一族の者(それは彼の家族でもある)に対して、
彼らが心の中に二重三重に隠していた、あるいは隠れていた真実を
次々と暴いていくところは本書の読みどころの一つだろう。

偽りの絆で縛られていた家族が、祖父の死をきっかけに
いったんは崩壊するが、葛城の示す ”真実” によって
再生していく過程も素晴らしいと思う。

前作は山火事によって山荘が孤立する、という趣向だったが本作は洪水。
現場を外部から隔絶した状態に置くための設定ではあるのだが、
それすらもミステリの一要素として上手く活用している。

この手のクローズト・サークルものは、
事件が進行していく(人が死んでいく)につれて
容疑者が減っていくというジレンマを抱えているのだが
「名作」と呼ばれている作品群は、
それでもなお ”意外な真相” を提示して見せてきた。

本作もその系譜に連なる傑作の一つになると思う。
少なくとも私は驚きましたよ。いやあ流石です。


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mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-08-16 11:05) 

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-08-16 11:05) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-08-16 11:05) 

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