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開化鉄道探偵 [読書・ミステリ]

開化鉄道探偵 (創元推理文庫)

開化鉄道探偵 (創元推理文庫)

  • 作者: 山本巧次
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/02/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

神戸ー京都間に敷かれた鉄道を、滋賀県の大津まで延長すべく
京都と滋賀の間にある逢坂山(標高325m)で
鉄道トンネル建設が始まったのは明治11年8月。
日本初の山岳トンネルだった。

そして明治12年。逢坂山トンネルの工事現場では、
妨害工作と思われる不審な事件が続発していた。

鉄道局長・井上勝から事件の調査を依頼された
元八丁堀同心の草壁賢吾は、工部省鉄道局技手見習の
小野寺乙松(おとまつ)とともに大阪経由で京都へ向かう。

 当時、東京ー大阪間は汽車と蒸気船を乗り継いで3日かかっていた。
 もし全線に渡って鉄道が開通すれば1日で到着できる。
 輸送力増強は明治政府の大目標の1つだった。
 ちなみに工部省というのは、輸送や電信、製造業などに関わる
 社会のインフラ整備を担当する役所で、後の総務省や郵政省、
 農林水産省や経済産業省などの前身に当たる。

しかし到着早々、2人は工事関係者の死亡事故の知らせを聞く。
工事を請け負った民間会社の社員・江口辰由が、
トンネル工事現場の最寄り駅である大谷駅から
京都駅へ向かう終電車から転落、
鴨川で死体となって発見されたというものだった。

当時の鉄道では、車両間・客室間の移動はできない構造になっていた。
車掌の証言で、江口の乗り込んだ車両には他の乗客がいなかったことから
警察は事故と判断していた。

さらに事件は続く。トンネル工事の発破(岩盤を爆薬で破壊すること)で
使われる、火薬の入った樽が盗まれてしまったのだ・・・

死人は出てくるけど、メインはやはり工事の妨害工作の真相だろう。
工事現場の周辺には鉄道で仕事を失った者たちも生活しており、
工事に従事する者たちの中にも出身や職種の違いから生じる対立がある。
探偵役の草壁は、そんな複雑な軋轢がからみあった人間関係を
解きほぐしていき、転落死事件の犯人まで指摘してみせる。

列車内の殺人のトリックは、当時の鉄道だからこそ成立するもの。
ミステリのネタとしてはちょっと弱いかな、とも思うが
それを上回って読ませる原動力となるのは、
背景となる文明開化の時代の姿だろう。

日本全土が鉄道で結ばれる未来を夢見る井上局長と小野寺。
しかしその鉄道によって人生が変わってしまった者たちは少なくない。

この事件に登場してくるのは、そんな人たちばかり。
彼らが取る行動は賛否が分かれるだろうが、
その時代を生きるために必死なのはみな同じだ。

明治維新以後は浪人となっていた草壁も、
事件の捜査を依頼されて悪い気はしないみたいで(笑)、
これ以後はシリーズ探偵として活躍するようだ。

次回作は既に発表されていて、埼玉県の大宮駅が舞台になるらしい。
貨物列車の脱線事故から始まるらしいのだが、
そうすると現場は大宮駅の操車場かな。

いまは「さいたま新都心」になってるけど、
昔あそこには巨大な操車場があったんだよ。
小中学生だった頃、大宮から東京方面へ向かうとき
京浜東北線の車窓から見えるその広大さに
びっくりしたことを覚えてる。
読むのが楽しみだ(笑)。


nice!(3)  コメント(3) 
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コメント 3

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-06-06 10:44) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-06-06 10:45) 

mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-06-06 10:45) 

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