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おうむの夢と操り人形 年刊日本SF傑作選 [読書・SF]

おうむの夢と操り人形 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

おうむの夢と操り人形 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/08/29
  • メディア: 文庫
評価:★★★

創元SF文庫のアンソロジーも12冊目で、これで打ちきりなんだそうな。
SFを読む絶対量が減ってしまった私にとって
貴重な ”補給源” だったんだけどね・・・

短篇18編(うち2編はマンガ作品)、新人賞受賞作1編、
合計19編を収録している。

●理解できて面白かったもの

「わたしとワタシ」宮部みゆき
40代未婚で普通の会社員の ”わたし” は、久しぶりに実家に帰る。
その玄関に座っていたのは一人の女子高生。
それは、30年前の高校1年生だった ”ワタシ” だった・・・
さすがは安定の宮部みゆき。何を書かせても上手いなあ。

「永世中立棋星」肋骨凹助
マンガ作品。
宇宙に浮かぶ自律小惑星型将棋AI、それが通称 ”棋星” だ。
世界でもトップクラスの演算能力を持ち、その内部では2つのAIが
常に対戦を繰り広げており、その棋譜は公開されている。
しかしその出力データの中には ”SOS” が隠されていると
人権(”人” 工知能の ”権” 利)保護団体は主張する。
依頼を受けた主人公・ソラは将棋AIとの直接対話を試みるが・・・
ちょっぴりJ・P・ホーガンの『未来の二つの顔』を思い出したよ。

「検疫官」柴田勝家
主人公は、ある国の空港で働く検疫官ジョン・ヌスレ。
彼の任務は、あらゆる ”物語” を国内に持ち込ませないこと。
その使命に従いながらも、悩み続けるジョンの一生が綴られる。
一切の ”物語” が禁じられた世界の造形がよくできてる。

「おうむの夢と操り人形」藤井太洋
某携帯電話会社が肝いりで発表した人型ロボット・パドル。
一時期は大量に出回ったが、ブームが去った後は倉庫で山積み状態。
そんなパドルの再利用法を開発した主人公・山科と飛美(ひび)は
IT機器販売会社に雇われ、パドルの改良に勤しむのだが・・・
パドルのモデルはSoftBankのPepper君らしい。
ロボットと言えば「アシモフの三原則」がまず頭に浮かぶが
それ以前の「自律AIを持たないロボット」という設定が面白い。

「三蔵法師殺人事件」田中啓文
TVアニメ『悟空の大冒険』(1967年)のパロディだそうな。といっても
オリジナルを知ってる人は、下限でも60歳近いんじゃないのかなぁ。
wikiでみてみたら、演じた声優さんはほとんど鬼籍に入ってるよ(悲)。

「スノーホワイト/ホワイトアウト」三方行成
女王様が「鏡よ、鏡」と呼びかける相手が
AI搭載の知性化ディスプレイだった・・・というところから始まる。
童話をSFに仕立てるシリーズの一編ということだが、
中盤からどんどんエスカレートして意外な結末へ。
こういうのは嫌いではないなぁ。

「応為」道満晴明
マンガ作品。
江戸時代。葛飾北斎の娘・お栄は山に墜落した物体を探しに行くが、
それは未来からやってきたタイムマシンだった。その乗員から
未来のマンガを見せられたお栄は、描かれた女性の姿に感激する・・・
今どきのマンガは、女性の体のラインなんかもかなり露骨、
かつ誇張されて描かれているが、お栄が見たのはそんな絵だった。
シリーズ作品の中の一編らしいんだけど、他の作品も見たくなる。

「大熊座」坂永雄一
コロラド州ホワイトマウンテンにUFOが来た、といった
三文記事が流れてから、彼の地で熊の異常行動が見られるという。
調査に入った2人の動物行動学者が見たものは・・・
ちょっと小松左京を思わせる話。

「1カップの世界」長谷敏司
アニメ化もされた長編「BEATLESS」の前日譚。
2027年、バロウズ財団の理事長で17歳のエリカは
難病のため人工冬眠に入り、77年後の2104年に覚醒する。
そこは超高度AIの管理する世界になっていて・・・
アニメ本編が見たくなったんだけど、
Netflixでは(今のところ)配信してないみたい。

「グラーフ・ツェッペリン 夏の飛行」高野史緒
小学3年生だった夏紀(なつき)は、訪れた土浦の地で
夕暮れの空を飛行船が飛んでいるところを目撃した。
それは機体番号からグラーフ・ツェッペリン号と思われたが
それが日本の空を飛んだのは90年前のことだった。
海外で研究者をしている夏紀の従兄・登志夫は、
量子コンピュータとVRゴーグルを使って、
世界に残るデータ、人々の記憶から
”夏紀の見た空” を再構成しようとするが・・・
壮大なホラ話なんだけど、こういうの好きなんだよねえ。

●よくわからないけど面白かったもの(笑)

「リヴィアさん」斉藤直子
主人公の女性・”私” と、アドバルーンの監視員(みたいなこと)の
アルバイトをしている彼とが、2人でビルの屋上で会話していると、
不思議なことが起こって・・・
起こっていることはちょっとホラーなんだけど
主人公の語り口がユーモアに溢れてて、
明るい『ウルトラQ』みたいな話になってる。

●理解できたが面白くなかったもの(なんじゃそれ)

「レオノーラの卵」日高トモキチ
工場で働く若い女性・レオノーラが産んだ卵が男か女か、
4人の男が賭けをした、というところから始まる。
SFなんだがストーリー的にはミステリ要素もある。
(実際、ミステリのアンソロジーにも入ってるらしいし)

「アルモニカ」水見稜
18世紀のヨーロッパ。医師のジョゼフ・ギョタンが行っている
”音楽療法” について、パリの王立科学アカデミーは
検証実験を行うことを求めるが・・・
合衆国大使ベンジャミン・フランクリン、彼の発明したアルモニカとか
最近読んだ『アルモニカ・ディアボリカ』(皆川博子)を思い出した。
化学者ラヴォワジエとか、歴史上の実在人物がけっこう登場する。
水見稜氏の30年ぶりの新作だそうな。

「四つのリング」古橋秀之
昔話風に語られる、壮大なスペースオペラ、なんだけど・・・

「「方霊船」始末」飛浩隆
長編『零號琴』のスピンオフ短篇とのことだが、本編を読んでない。
でも本作だけでも、作者が創造した作品世界が
かなりユニークだというのはよくわかる。

●よくわからない上に面白くなかったもの(おいおい)

「東京の鈴木」西崎憲
途中で読むのをやめました。ごめんなさい。

「クローム再襲撃」宮内悠介
元ネタの「クローム襲撃」(ウイリアム・ギブスン)も
「パン屋再襲撃」(村上春樹)も、どっちも読んでない。
それでも大丈夫だろうって思って読み始めたんだけど、
大丈夫じゃありませんでした(笑)。

「幻字」円城塔
この作者さんとは徹底的に相性が悪いようです。
すみませんごめんなさい。

■第10回創元SF短編賞受賞作

「サンギータ」アマサワトキオ
近未来のインドで、ヒンドゥーの ”現人神” として選ばれた
少女サンギータと、彼に使えることになった少年シッダルタ。
文庫で100ページを超える堂々のボリュームで
異形の神の物語を紡いでいき、予想外のラストへとなだれ込んでいく。
スゴい人だなぁと思ったら、「赤羽二十四時」(『NOVA・2019年秋号』)
で、コンビニが怪獣となって暴れ回る話を書いた人だったんだね。

中学時代はミステリばかり読んでいたが、高校からSFも読み始め、
大学時代から20代前半くらいまでは、SFがメインだった。

それが新本格ミステリ勃興によって一気にミステリに戻ってしまい
SFを読む量は激減してしまった。

若い頃は、SFと名がつけばたいていの作品は面白いと思っていた。
でも最近思うのは、「面白い」と思える作品が減ったかな、ということ。

 もちろん馴染みの作家さんのものは今でも面白いと思うし、
 それ以外でもハマる作品はあるけれど。

私のアタマが固くなって「面白い」と感じる作品のゾーンが
狭くなってきたのか、それよりも
最近のSF作品の裾野が広がりすぎて、
「私の考えるところのSF」の範疇から逸脱した作品が増えたのか。
多分両方なのだろう。

そんな中で、「新しくて面白い」作品に出会える可能性を
提供してくれていたアンソロジー・シリーズなので、
終了してしまうのはホントに残念・・・なのだけど、
毎回、文庫で600~700ページという分厚さを前にして
少なからぬ躊躇いを覚えていたのも事実なので、
ちょっぴり安心(?)もしている。

長編なら、長いのは一向に気にならない(むしろウエルカム)んだけど
このシリーズの場合、馴染みのない作家さんの作品も少なくないし、
それが面白いかどうかもわからないわけで
それらがまとまってドーンと出てくるのには、緊張せざるを得ない。

「それがアンソロジーの楽しみじゃないか」
と言われてしまえば、それまでなんだけどね。


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コメント 4

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-06-06 10:43) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-06-06 10:44) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-06-06 10:44) 

mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-06-06 10:44) 

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