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七つの海を照らす星 [読書・ミステリ]

七つの海を照らす星 (創元推理文庫)

七つの海を照らす星 (創元推理文庫)

  • 作者: 七河 迦南
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/05/22
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

第18回鮎川哲也賞受賞作。

舞台となるのは、児童養護施設・七海(ななみ)学園。
鉄道の終点駅から、さらにバスで山道を登っていった先、
景色を眺めれば遥か遠くに海が見えるという片田舎にある。
そこには様々な事情で親と共に生活できない子どもたちが集まっている。

主人公は、そこで働く保育士・北沢春奈、就職して2年目の24歳だ。
それぞれに複雑な事情を抱えた子どもたちを相手に奮闘する毎日だ。

しかし、学園ではいくつかの不思議な事件が起こっていく。
その謎に光明を与えてくれるのは、児童相談所の児童福祉士・海王さん。
ちょっと太めの中年だが、落ち着いた雰囲気のオジさんで
子どもたちからの信頼も抜群、しかも深い洞察力を持っている。

春奈と海王さんが出合う6つの事件を描いた連作ミステリ。

「第一話 今は亡き星の光も」
喘息で体の弱かった葉子は七海学園に来ても居場所がなかったが、
上級生の玲弥(れいや)と知り合い、心を通わせるようになった。
しかし玲弥は問題行動をくり返すようになって別の施設へ移され、
その直後に亡くなってしまう。そしてその知らせを聞いた葉子は驚く。
玲弥が亡くなった2日後に、葉子は彼女の姿を目撃していたのだ・・・

「第二話 滅びの指輪」
浅田優姫(ゆうき)には父親はなく、母親には生活能力がなかった。
11歳の彼女は家を飛び出し、ホームレス生活を送っていたところを
保護されて七海学園にやってきた。
以来6年。高校3年生になった優姫は、専門学校への進学のために
アルバイトに精を出していたが、春奈は彼女の貯金通帳に
驚くほど高額の預金があることを知る・・・

「第三話 血文字の短冊」
沙羅(さら)と健人(けんと)の姉弟の家は父子家庭。
外資系で働く父親は、ウイークデイだけ子どもを七海学園に預け
土日は姉弟とともに家で過ごしていた。
姉弟の母親と離婚した父親は、新しい恋人との再婚を考えていた。
ある日、沙羅は父と恋人が電話で話しているのを聞いてしまう。
その会話の中で父が『私は沙羅が嫌いだ』と語っているのを。
春奈の見るところ、父親が沙羅へ向ける愛情は本物に見えるのだが・・・

「第四話 夏期転住」
七海学園は8月の2週間ほどを山荘で過ごす『夏期転住』を行っていた。
小学5年生の俊樹は、そこで直(なお)という少女と出会う。
夏期転住と同時に入所してきたという彼女とともに
俊樹は楽しい日々を過ごすが、子どもたちが滞在する山荘に
一人の男が現れる。「父親に頼まれて直を探しに来た」と。
その男に見つけられてしまった直は逃げだし、
山荘の非常階段を駆け上がっていく。男も俊樹も後を追うが、
逃げ場がない階段上から彼女は姿を消してしまっていた・・・

「第五話 裏庭」
県内の児童養護施設は、毎年合同で体育イベントを開いていたが
前回の大会でトラブルが起こったことで、今年の開催が危ぶまれていた。
そんなとき、七海学園で暮らす高校生・明が、他の養護施設の女子と
つき合っていることが明らかになる。相手が入っている施設は
規則が厳しいことで有名で、学園へ抗議の電話がかかってくるが・・・

「第六話 暗闇の天使」
学園の子どもたちが通う小学校の近くにあるトンネルには、
女の子6人でトンネルを通ると、いないはずの7人目の声が聞こえる、
という ”伝説” があった。怯える子どもたちのために
伝説の真偽を確かめるべく、春奈は実際に声を聞いたことがあるという
卒業生たちに会いに行くのだが・・・

ここまで、6つの謎が語られてくる。
それぞれの話にはそれぞれの結末で解決が示される。
基本的には ”日常の謎” ミステリなのだが、舞台が児童養護施設だけに
家庭崩壊や児童虐待など人間の暗部にも関わってくるものも含まれる。

オチもそれぞれで、ライトでほのぼのするものから
ダークで深刻、読んでいて胸が痛むものまで。

それでも、読後感が悪くならないのは、
作者が施設で暮らす子どもたちに注ぐ視線が温かいこと、
それを取り巻く春奈の純真さ、海王の頼もしさが
しっかり描かれていることか。

子どもたちを不幸に落とし込むのは大人なのだが
その子どもたちを支えて力になろうとする大人もいる。
それが示されていることが救いになっているのだろう。

各話は独立したミステリ短篇としても素晴らしいが
最終話「第七話 七つの海を照らす星」に至り、
いままでの6つの話に異なる方向から光が当たり、
一つの物語となってつながっていく。

中には、いったんは明らかになったはずの謎に
新たな解釈が示されるものもあるが、このあたりの変転も鮮やかだ。

鮎川哲也賞受賞後第一作として刊行されたのが
『アルバトロスは羽ばたかない』で、内容は本書の続編になっている。
こちらの文庫版も手元にあるので近々読む予定。


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コメント 4

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-05-02 01:12) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-05-02 01:13) 

mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-05-02 01:13) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-05-02 01:13) 

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