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あとは野となれ大和撫子 [読書・青春小説]

あとは野となれ大和撫子 (角川文庫)

あとは野となれ大和撫子 (角川文庫)

  • 作者: 宮内 悠介
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/11/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

「アラル海」というものをご存じだろうか。

ヨーグルトで有名な(笑)「カスピ海」というのがある。
ユーラシア大陸の内陸部、中央アジアと呼ばれる場所に位置していて
名前こそ「海」だが、実は日本とほぼ同じ面積をもつ世界最大の湖だ。

私が小中学生の頃、社会科の地図帳を開くと、
その「カスピ海」の東に小さい湖があった。
小さいとはいってもカスピ海と比べるから小さく見えるが
日本の東北地方くらいの面積があった。それが「アラル海」だ。

「あった」と過去形なのは、21世紀の現在、
アラル海はその80%が干上がってしまい、
かつての1/5の面積に縮小してしまっているからだ。

 20世紀半ばから、ソビエト連邦が綿花栽培の灌漑に使うため、
 アラル海へ流れ込む川の水を利用するようになり、
 その結果急激に面積が縮小してしまった。
 これは後に「20世紀最大の環境破壊」と呼ばれるようになる。

前置きが長くなってしまった。
本書は、そのアラル海が干上がってできた土地に建国された
”アラルスタン” という架空の小国家が舞台になっている。

国内には地域紛争に追われて流れ込む多民族の難民とテロ組織を抱え
周囲の国は国土の南部に発見された油田の権益を狙う。
そのような微妙な力の均衡の上に成り立つ国だ。

主人公は日本人少女・ナツキ。
父親はODAでアラスルタンに来た農業技術者だったが
彼女が5歳の時に紛争に巻き込まれて両親は死亡、
ナツキは ”後宮(ハレム)” に引き取られることになった。

そこは、初代大統領の頃は文字通りの ”ハレム” だったのだが、
二代目大統領アリーは、そこを次代の人材養成のための
女子の高等教育を行う ”学校” へと作り替えていた。

ナツキはそこで多くの仲間と共に15年間を過ごし、”卒業” 後は
父のような技術者になって、砂漠に雨を降らせることを夢見ていた。

しかしアリー大統領の暗殺によって情勢は一変する。
反政府組織AIM(アラルスタン・イスラム運動)が蜂起し、
首都マグリスラードへ進撃を開始したのだ。

しかも、国会議員をはじめ国の中枢を占めるメンバーのほとんどが
首都から逃亡してしまうという事態に。

そんなとき、後宮で学ぶ女たちのリーダー・アイシャは
とんでもないことを始めようとする。
なんと、自分たちで「臨時政府」を立ち上げようというのだ。
アイシャは大統領代行、ナツキは国防相に就任してしまうことに・・・

突然、国家権力の空白を埋めることになってしまった少女たちが
次から次へと襲いくる試練を乗り越えて ”国家” を ”運営” していく。
しかし彼女たちの表情に悲壮感はない。
軽やかにしなやかにおおらかに、ぼやきながらも笑顔は忘れない。
逞しく強かに生き抜いていく乙女たちの痛快冒険物語だ。

こういう物語の常だが、登場人物のキャラが見事に立ってる。

主役のナツキ。もともと楽観的な性格なのだろうが、
銃弾や爆撃機が飛び交うような最中でも明るさ元気さを失わない。
まさに、この物語のテーマと雰囲気を体現するお嬢さんだ。

アイシャが立ち上げた臨時政府に参加した仲間の一人、ジャミラは
他人と群れない一匹狼的なところがあるのだが、実は意外な過去が。

アラルスタン国軍大佐アフマドフは、なぜかナツキのことが気に入って
なにかと後ろ盾になってくれる頼もしい大人。

「臨時政府」最初の敵となるAIMの若き幹部・ナジャフは、
過去にナツキと ”ある因縁” でつながっていたことが明らかに。

イーゴリは後宮に出入りする、自称 ”吟遊詩人” だが
裏ではいくつもの顔をもつ謎の男。

そして後宮の ”お局様” 的存在のウズマ。
何かと「臨時政府」を敵視し、裏で何やら画策していて
物語終盤のキーパーソンとなる人物。

個性的かつ多彩なキャラが架空の砂漠の国を舞台に大活躍。
文庫で500ページ近い大作だが、ページを繰る手が止まらない。
楽しい読書の時間を過ごせる一冊だ。


nice!(3)  コメント(3) 
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mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-01-31 03:08) 

mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-01-31 03:08) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-01-31 03:08) 

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