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ミステリークロック / コロッサスの鉤爪 [読書・ミステリ]

ミステリークロック 「防犯探偵・榎本」シリーズ (角川文庫)

ミステリークロック 「防犯探偵・榎本」シリーズ (角川文庫)

  • 作者: 貴志 祐介
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/11/21
  • メディア: 文庫
コロッサスの鉤爪 (角川文庫)

コロッサスの鉤爪 (角川文庫)

  • 作者: 貴志 祐介
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/11/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

防犯コンサルタント(本業は泥棒?)の榎本径(えのもと・けい)と
美貌の刑事弁護士・青砥純子(あおと・じゅんこ)のコンビが
さまざまな密室殺人事件に挑むシリーズの一編。

もともとは『ミステリークロック』という表題で
一冊の短編集だったのだが、加筆を経て2分冊で文庫化された。

「ゆるやかな自殺」
暴力団塗師(ぬし)組の野々垣は組から禁じられていたシノギに手を出し、
それを咎めてきた若頭・岡崎を殺害する。さらに、野々垣の犯行に
気づいた可能性のある弟分のミツオまで殺してしまう。
塗師組事務所のドア解錠のために呼び出された榎本は、
事務所の中にミツオの死体を発見するが、現場は密室状態だった・・・
一歩間違えるとバカミスレベルになってしまうトリックだが、
それをそう感じさせずに読ませる手腕は流石。

「ミステリークロック」
ミステリ作家・森怜子の山荘に招かれた榎本と純子。
そこには怜子の前夫をはじめ同業の作家、編集者などが集まっていた。
怜子が蒐集した8つのアンティーク時計が披露され、
その値段当てゲームが催される中、怜子の変死体が発見される。
怜子の夫・時実玄輝(ときざね・げんき)は
この場で犯人を暴くと宣言するのだが・・・
現場となった屋内のあちこちに時計が置かれ、
さらにリアルタイムの時刻が「九時三十分」などと
太字で記され、否が応でも時間を意識させられる描写と展開。
時計の進みに何らかの仕掛けがあるというのは予想されるものの
ラストで明かされる真相は実に驚嘆すべきもの。
物理トリックと心理トリックを巧みに組み合わせて
犯行可能な時間をひねり出しているのだが、
図と表を用いた詳細な解説部分を読んでいると
これを考え出した犯人(作者)の執念には鬼気迫るものを感じてしまう。
文庫で約230ページという、長編に迫るボリュームもすごい。

「鏡の国の殺人」
新世紀アート・ミュージアムの館長・平松が殺され、榎本に殺人容疑が。
防犯カメラの映像から、犯行時刻に現場に入ったのは彼だけだったのだ。
容疑を晴らすべく、榎本は純子の協力で犯人捜しを始める。
美術館の企画展で作品製作をしていたアーティスト・稲葉が疑われたが
彼が現場に入るには複数の監視カメラを欺かなければならない・・・
犯人が現場に入ることができなかったという、いわゆる ”逆密室”。
ここでも物理トリックと心理的な盲点を効果的に組み合わせている。
途中で出てくる「日本ルイス・キャロル学会特別顧問」なる肩書きの
萵苣根功(ちしゃね・こう)というキャラの珍妙さに驚かされるが
単なるギャグ要員ではなく、ちゃんと真相解明に一役買うのは流石。

「コロッサスの鉤爪」
民間企業・大八洲(おおやしま)海洋開発の実験船『うなばら』は、
小笠原諸島・母島沖合で新型ソナー(海中聴音機)のテストをしていた。
その職員・布袋は、夜釣りの最中に何者かに海中に引き込まれてしまう。
彼の遺体には、鉤爪でつけられたような謎の傷跡が。
布袋のボートがあったのは『うなばら』から200m離れた海上で、
ソナーはスクリュー等の推進音は一切キャッチしていなかった。
海底300mには潜水していたダイバーたちがいたが、
31気圧の海底から水面まで上昇するには
10日以上かけてゆっくりと減圧しなければならない。
誰も現場に近づけない ”逆密室” の調査を依頼された榎本と純子だが。
 タイトルの「コロッサス」とは、ダイオウホウズキイカのこと。
 ダイオウイカを超える体重と鋭い鉤爪をもつ巨大イカだが、
 南極海に生息していて小笠原近海にはいない。
いやあこのトリックにはびっくり。まさかこんなものが出てくるとは。
いわば ”一発ネタ” なんだけど、”使ったもん勝ち” だよねぇ。
こんなモノをあんなコトに使おうという発想の勝利か。

毎回、密室や不可能犯罪に対して
純子が繰り出す脱力もののトンデモ解釈、
そしてそれを聞いた榎本が目を回す、
というお約束の展開も健在。

もちろん実際は、読んでいる方が唸ってしまいそうな
奇想天外とも言える様々なトリックが惜しげもなく投入された
贅沢なつくりの本格ミステリになってる。

しかもこのシリーズの特徴は、物理トリックがけっこう多いこと。

小説の世界では、物理トリックは心理トリックより一段下に見られがち、
というか、新しい物理トリックはもう出尽くしている、と思われてる。
でも、この作者はどんどん情報をアップデートしていて
現代的な物理トリックを次々と発想している。
この姿勢は素晴らしいと思う。

とは言っても、先鋭すぎて「読者が推理する」のはほぼ不可能。
当てずっぽうでも当てられる人はまれだろう。
読んでいると、高名なマジシャンがステージ上で
次々に華麗なマジックを披露する様を、口をあんぐり開けて
「はああ~」って眺めているような気分になる(笑)。
それはそれで快感なんだけどね。

物理トリックは映像と相性がいいので、
この作品群もドラマや映画になったら観てみたいと思わせる。


nice!(4)  コメント(4) 
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コメント 4

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-01-31 03:04) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-01-31 03:04) 

mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-01-31 03:05) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-01-31 03:05) 

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