SSブログ

もうヒグラシの声は聞こえない [読書・恋愛小説]

もうヒグラシの声は聞こえない (ポプラ文庫ピュアフル)

もうヒグラシの声は聞こえない (ポプラ文庫ピュアフル)

  • 作者: 真未, 青谷
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2019/10/04
  • メディア: 文庫
評価:★★

高校3年生の夏と言えば、受験生だったら勉強の追い込みの時期だ。
しかし本書の主人公・島津満は、大学付属の中高一貫校に通う身。
夏休み前の時点で、すでに系列大学への進学が決まっていた。


暇を持て余していた島津は、水泳部だった経験を生かし、
夏休み中の市民プールで監視員として働き始めることになる。


アルバイト開始から3日め、島津の視界に一人の少女が入ってくる。
競泳用の水着に身を包みながら、水に入ると激しく必死にもがく。
要するに、全くの ”かなづち” だったのだ。


アルバイトの帰りに、バス停で再び彼女と顔を合わせた島津は、
彼女の水泳のコーチを引き受けることになる。


しかし、その条件は奇妙だった。
「事前に来る日時は教えません」
「たまたまプールで出合えたら、泳ぎを教えてください」
「連絡先も教えません」
せめて名前を、と食い下がる島津に彼女は告げる。
”ひぐらし” と。


島津は水泳のコーチを通じ、ひぐらしとの時間を過ごしていく。
バタ足からクロール、そして平泳ぎへ。彼女は順調に上達していく。


さらに彼女は「自転車にも乗れないし、逆上がりもできない」
というので、ついでにそちらもコーチをすることに。


7月の最終日、自転車の練習のために二人で訪れた国営公園で
ひぐらしは一人の少女から「エリ!」と声をかけられる。
それは島津のクラスメイトの浅野果歩だった。


浅野はひぐらしに対して懐かしそうに話しかけるが
ひぐらしは一向に表情を変えない。
問いかける島津に対し「知らない人です」と答えるのだった・・・

物語の冒頭から、ひぐらしの特異な振る舞いが目立つ。
常に、人との関わりが極力少なくなるような行動を選択し、
自らの個人情報を他人に知らせることもせず、友人も一切つくらない。


やがて、ひぐらしは記憶に何らかの障害を負っているらしいことが
明らかになってくる。

日時を決めた約束をしないのは、
彼女自身に ”もの忘れ” が多いためだった。

幼馴染みであった浅野の存在を忘れていたことから、
過去の記憶の一部を失っているらしいこと。
そして、近い将来、自分が再び記憶を失うであろうことを
彼女自身が予期しているらしいことも。

人を人たらしめているのは何か。
人が、自らの記憶の一切を失ってしまったら、
その人は「その人だ」と言えるのか。

これも恋愛ものの定番のひとつかも知れない。
近年も、若年性のアルツハイマー症を扱った
恋愛ドラマがあったような気もするし(観てないので断言できないが)、
短期記憶ができない女性との恋を描いた映画もあったみたいだし
(これも観てないので断言できないが)。

ある種のビタミン欠乏から記憶障害が起こるドキュメンタリーもあった。
(これはしっかり観たんだが、かなり前なので記憶が曖昧)

本書を読みながら、ひぐらしが抱えている記憶障害は
どんなものなのだろうと考えながらストーリーを追った。

それは中盤過ぎに明らかになる。
ネタバレになるのでここでは書かないが、
これはちょっとつくりすぎな感が。

この手の作品で架空の疾病を出すのは善し悪しかなあ。
リアリティという点では不利になってしまうが
物語を作る上で、そのユニークさゆえの独自の展開や
その作品ならではの盛り上がりを設定できるという利点もある。
作者は後者を取ったのだろうけど・・・

出てくるキャラにはとても好感を持った。

ヒロインのひぐらし嬢は、過酷な運命を背負いながらも
懸命に ”今日” を生きているし、

島津君も、何よりもひぐらし第一に考えて行動する誠実な人柄で
ある意味、”この手の物語” では理想的な相手役。

そして、浅野さんがまたいいねぇ。
旧友であるひぐらしと再会できた喜び、
自分の前から突然消えたことへの怒り、
過去に起こしたある出来事による負い目・・・
ひぐらしに対して様々な感情を持ち合わせているという
難しい役柄なんだけど、基本的には明るくて表情豊かな女の子だ。
苦しみながらも最後までひぐらしの幸せを願う姿も、またいい。

ラブ・ストーリーとしては、私は今ひとつのめり込めなかったけど
ハマった人はきっと大感激するんだろうなぁ、とは思う。


nice!(2)  コメント(2) 
共通テーマ:

nice! 2

コメント 2

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-07-03 23:57) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-07-03 23:57) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント