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鬼の当主にお嫁入り 管狐と村の調停お手伝いします [読書・ファンタジー]


鬼の当主にお嫁入り ~管狐と村の調停お手伝いします~ (二見サラ文庫)

鬼の当主にお嫁入り ~管狐と村の調停お手伝いします~ (二見サラ文庫)

  • 出版社/メーカー: 二見書房
  • 発売日: 2019/07/11
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

ヒロインの綾乃は18歳の高校3年生。
物語は彼女が高校の卒業を控えた1月末に始まる。
たった一人の身内である母・清子が交通事故死したのだ。

清子は20年近く前に記憶を失った状態で保護され、
そのとき既に綾乃を身ごもっていた。
そんな状態の清子が安定した職に就くことはできず、
母子は経済的に苦しい状態で生活してきた。

清子の葬儀で貯金をすべて使い切ってしまった綾乃に、
アパートの大家は無情にも立ち退きを迫ってくる。
明日の生活費にも事欠く綾乃は高校を中退、働き始めるが
高卒の資格もない彼女のアルバイトでは高収入は望めない。

 このままでは、”夜の世界” で働く羽目になりそうだなぁ・・・
 って思ったのは私だ(笑)。

進退窮まっていた綾乃のもとに、一通の手紙が届く。
”羽邑冬晟”(はむら・とうせい)と名乗る差出人は、こう綴る。

「私はあなたの許嫁です。ついては、
 私の暮らす村まで来てくれませんか」

どう考えても胡散臭い申し出で、普通なら
無視するような内容なのだが、綾乃はこの申し出に従うことを決める。
自暴自棄とまでは言わないが、かなり精神的に参っていたのだろう。

手紙に従い、東北の地で会った冬晟は、意外にも若かった。
和装に身を包んだ穏やかな若隠居といった風情、年齢は30歳だという。

彼が暮らしているのは、三方を山に、残り一方を谷に囲まれた小さな村。
そこで羽邑家は ”当主” と呼ばれ、村人から一目置かれている。
そして綾乃の母・清子はこの村で育ったのだという。

冬晟自身は、村の内外に先祖から受け継いだ複数の不動産を持ち、
その運用益で悠々自適に暮らしている。
不動産活用セミナーの講師も務め、業界紙に連載を持っているなど
それなりに忙しい日々を送っている。

冷静に考えればものすごい資産家で、立派な玉の輿。
しかしその冬晟本人は、綾乃に対しては
なぜか腰が低く、命令や要求めいたことも一切言わない。
彼女の方から結婚について持ち出しても、言葉を濁して煮え切らない。

綾乃の自由意志を尊重しているようにも見えるが、
許嫁云々は口実で、何か他に目的があるようにも思える。

綾乃は冬晟の本心がつかめないまま、とりあえず
彼の暮らす屋敷の一角に部屋を与えられる。
しかし何もすることがなく、手持ち無沙汰な綾乃は、
冬晟のハウスキーパーとして働き始める。

同時に綾乃は村の人々とも交流を始めるが、
高齢者ばかりの村人からすれば、18歳という若さ、質素な身なり、
擦れたところのない性格、しかも当主の許嫁という立場もあって
行く先々で好意的に迎え入れられることになる。

そんなある日、彼女は羽邑家が ”当主” と呼ばれるわけを知る。
村人たちの間に起こった揉め事に対して、
羽邑家(つまり冬晟)が調停に乗り出すという慣例があったのだ。

「第一話 花の下にて君を想う」では、
桜の木を挟んで住む二人の老人の諍いを、
「第二話 木の葉でつくった婚姻届」では、
村で唯一の旅館を営む夫婦の浮気騒ぎを、それぞれ調停することになる。

綾乃は冬晟を手伝って村人たちと関わっていくが、
その中で、彼女が揉め事の陰に隠れた真実を見抜く ”力” を
持っていることに、冬晟たちは驚かされることになる・・・

そんな中、冬晟の穏やかで優しい人柄に触れていく綾乃は
次第に彼に対して好意を覚えていくようになるが、後半に入ると
村を取り巻く山の奥に住まう隼人という若者が現れ、こう告げる。

羽邑家の先祖が、この村に対して ”呪い” をかけた、と。

「第三話 夢の終わりに」では、
羽邑家に敵対的な立場を取る隼人と、冬晟の対決を通して
そもそもの村の成り立ちを巡る経緯、そこで羽邑家が果たした役割、
村にかけられたという ”呪い” の正体、
さらには綾乃の母・清子の過去が明らかになっていく。


なんといっても、ヒロインの綾乃さんのキャラがいい。
序盤では過酷な運命に翻弄されて、状況に流されるままに行動しているが
冬晟と出会い、村の人々に迎え入れられてからは
水を得た魚のように生き生きと活発なお嬢さんになっていく。

さらには、上にも記したように、もめ事の真実を見抜くだけでなく、
円満に解決する道を見いだす聡明さを示し、”当主の嫁” としても
これ以上の人はいないんじゃないかと思わせる逸材ぶりを発揮する。

冬晟との結婚問題についても、終盤では序盤と打って変わり、
自分が一番幸せになれると思う道を、自らの意思で選び取っていく。
さながら蛹から蝶に変わっていくような、
綾乃さんの成長ぶりが見事に描かれている。

ストーリーは本書で完結しているので続編はないだろうけど、
短編でもいいので後日談が読みたいなあ。
そう思わせるくらい、綾乃さんが気に入りました。

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mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-06-27 01:45) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-06-27 01:46) 

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