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ショパンの心臓 [読書・ミステリ]


ショパンの心臓 (ポプラ文庫)

ショパンの心臓 (ポプラ文庫)

  • 作者: 真未, 青谷
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2019/01/04
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

まずタイトルの「ショパンの心臓」ってのが誤解を招くと思う。

ショパンは、しばしば ”ピアノの詩人” とも評される有名な作曲家で
出身地ポーランドへの愛国心が強く、
死去したとき、遺体はフランスに埋葬されたのだけど、遺言によって
遺体から取り出された心臓のみは、ポーランドへ埋葬された。
その心臓は第二次大戦中に行方不明になったけど、
戦後になったら還ってきたという。

これがタイトルの由来になったエピソードなのだけど、
ミステリのタイトルに「ショパン」とあって、
しかも表紙の挿絵がピアノだったらもう・・・
普通なら、音楽ミステリだろうと思うんじゃないかなぁ。

でも、違うんだよねぇ。
本書は芸術を扱ったミステリではあるけれど扱われるのは音楽ではない。
もちろん「ショパンの心臓」の行方を巡る歴史ミステリでもない。

じゃあ、なんで「ショパンの心臓」なのか。
これはまあ読んでいけば分かることなのだけど。

それでもねぇ。

このタイトルがベストなのかと言えば、違うような気もするんだよねえ。
すくなくとも「ショパン」という単語を使わなければ、
いろいろ勘違いされるおそれはかなり減ったと思うんだけど。

・・・まあ、タイトルだけでこんなに長く書くつもりはなかった。
内容に入ろう。


時代はたぶん2010年代はじめ。
主人公・羽山健太は、大学を卒業したばかり。
しかし入社試験にことごとく落ちまくった結果、
4月に入ってもいまだ就活中の身だった。
しかしどこからも色よい返事はもらえない。

ある日、健太は街角で『よろず美術探偵』との看板を掲げた店を発見、
そこの店長・南雲の誘いもあって、アルバイトとして働き始める。

健太が最初に迎えた客は、立花貴和子という40代の女性。
彼女が学芸員を務めている美術館で、
物故した画家・村山光雄の回顧展を開くことになった。
「ついては、彼の最高傑作とされる絵を飾りたい。
 その絵を探し出してほしい」というのが貴和子の依頼。

生前、光雄自身が新聞社のインタビューでその絵のことを評して
「”ショパンの心臓” のようなもの」と語っていたという。

村山光雄は、華々しい受賞歴もなく、世間からも忘れられた画家だった。
健太は ”探偵見習いの初仕事” として、
南雲からその絵の探索を命じられたが・・・


まず、主人公の健太が頼りないこと夥しい。
「のんびり」とか「楽観的」というレベルを越えて
単なる「ぐうたら」で「怠け者」にしか感じられない。

「いままでなんとかなってきたのだから
 これからもなんとかなるだろう」っていう人生観で
「いやあ、なんとかならないでしょ。人生そんなに甘くないよ」
 ってツッコみたくなる。

どれくらいぐうたらかというと、就職試験に臨むときにも
受ける企業の「会社概要」すら読まないんだから。
とにかく漢字が嫌い、長い文章が嫌い、注意力は散漫、
物事を深く考えることが嫌い・・・と挙げていくと
全くいいところがないんだが、こういう主人公も珍しい。

 後半になって、彼のそんな ”性格” 形成には
 彼の家庭事情も大きかった、ってのが語られるんだけど、
 それにしても極端すぎるよねえ。
 こんなのがよく大学生になったよなあ、なんて
 どうでもいいことまで考えてしまう(笑)。

依頼人の貴和子から、村山光雄についての
詳しい資料ファイルを受け取ったにもかかわらず、
それすら読まずに(読んでも上っ面だけ)、
本書の前半は、行き当たりばったりに行動しては、
失敗をくり返す健太の姿が延々と描かれる。

まあ、それを通じて村山光雄についての情報を
読者に対して少しずつ明かしていく、
という構成になっているんだろうけども・・・

中盤過ぎでやっと ”ショパンの心臓” の手がかりをつかむんだけど、
実はそれすら貴和子の資料にしっかり記載されていた、というオチ。

つまり健太が最初に資料をじっくり読み込んでおけば、
前半の迷走はほぼ必要なかったわけで、これに
大いなる徒労感を感じた読者は少なくないんじゃなかろうか(笑)。

私がつけた評価が辛いのも、このあたりがその理由。

もっとも、ここからストーリーは絵の探索に並行して
貴和子自身と村山光雄との関わりに移っていくのだが・・・


ポーランドとフランスという ”二つの祖国” をもつショパンを
幻の画家・村山光雄に投影して描くのが本作の目的だったのだろうけど、
ミステリのネタとしては、短篇でも描けなくはないようにも思った。

ラストでは、さすがの健太君も今回のことで少しは学習したようで
読み終わってみると、彼の成長を描くことがメインだったようにも感じる。
そのために(短めとはいえ)長編のボリュームが必要だったのだろう。

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コメント 3

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-06-22 00:20) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-06-22 00:20) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-06-22 00:21) 

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