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未来恐慌 [読書・SF]


未来恐慌 (祥伝社文庫)

未来恐慌 (祥伝社文庫)

  • 作者: 機本伸司
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2018/02/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

物語の始まりは、2029年初夏の日本。

半年後に開かれる ”web万博” に向けて、準備が進んでいる。
ネット内の仮想空間に ”会場” を構築、
各国のパビリオン(おお、懐かしい単語だなあ)もそこに ”建設” し、
観客も世界中からネット経由で ”web参加” してもらおうという企画。
VRゴーグルを装着して各施設の中を見学し、
他の ”観客” ともコミュニケートできる。

主人公・別所暉(べっしょ・ひかる)は、大学を出て2年目の若手。
IT企業に就職したが、入社直後から
”web万博「日本館」” 企画部へ出向、既に1年が経とうとしている。

「日本館」展示の目玉は「スパコンによる未来予測」。
通称 ”E計画” と呼ばれているこのプロジェクトは、
T大学教養学部准教授・大竹亜礼(おおたけ・あれい)が率いている。

日本国内にあるスーパー・コンピュータを用いて、
空前の大規模シミュレーションを敢行、気象などの環境変化のみならず、
社会情勢の変化までも描き出そうというものだ。

しかしそのシミュレーションが導き出したのはとんでもない未来だった。

株価の大幅下落、次いで燃料費の大幅な高騰。
これを皮切りに1929年の世界恐慌を上回る ”大恐慌” が始まる。
輸出入が止まり、物流が滞り、企業は倒産、失業率は跳ね上がる。
電気・水道・ガスなどのインフラが不安定化し、
貨幣価値が暴落、市民の不安/不満は国へ向かう。
全国で暴動や反政府デモが巻き起こり、
恐慌開始から1年以内に日本国民は一億総難民化する。

しかもこれが、今後10年以内に起こるという・・・

初期条件を様々に変化させてシミュレートし直しても、
結果は大同小異で、どっちに転んでも ”大破局” は避けられない。

しかし、大竹のチームからこの報告を受けた実行委員会および
万国博スポンサー企業の幹部たちはシミュレーション結果を握りつぶす。

大竹は更迭され、プロジェクト・チームのメンバーは
人事異動で散り散りにされてしまう。

しかし2029年10月22日、ニューヨーク市場で株価の大暴落が始まる。
そこからシミュレーション結果をなぞるように世界中が大不況に陥り、
日本も坂道を転がり落ちるように大混乱に陥ってしまう。

プロジェクトから去る前に、大竹が構想していた
”E2計画”(大恐慌からの脱出シミュレーション)に希望を託し、
暉をはじめとするプロジェクトの旧メンバーたちは、
大竹の行方を追って暴徒があふれる東京の街を奔走する・・・


本書のモデルは、「あとがき」で作者も書いてるけど
小松左京によるSF大作「日本沈没」だ。
流石に日本列島が水没することはないが、その代わりに
日本という国が、経済的に ”轟沈” してゆく様が描かれる。

 「E計画」「E2計画」のネーミングは、明らかに「日本沈没」での
 「D-1計画」「D-2計画」のオマージュだろう。
 大竹教授は田所博士の役回りだね。

40年前の「日本沈没」では、地球内部の変動が
日本列島が沈んでいく引き金になったが
(「マントル対流」って言葉はこの作品で覚えたよ)
本書では、IT技術の進歩にその役が割り当てられている。
わずかな時間に膨大な株の取引を可能にした
”高速自動取引システム” が、株価の大変動を引き起こす。
その陰には、ハード/ソフトを含めた巨大IT企業の存在もあるのだが。


全体的によくできてると思うんだけど、
株価の大暴落から東京の治安悪化までがあっという間で、
ちょっと早すぎな感もする。
まぁ、ページ数の都合(笑)もあるのかな。

上の粗筋を読んでると、主人公たちが首尾よく ”E2計画” の
シミュレーション結果を手に入れ、そこから
破局脱出の突破口を見つける・・・って展開になりそうなんだが
そう簡単な話ではない。この ”E2計画” がはじき出す
”不況克服に最も効果的な方法” なるものがまたねぇ・・・うーん。

大恐慌を放置するか? E2計画の結果を受け入れるか?
最後の最後、主人公たちが下した決断は・・・

ラストはいささか楽観的な感じもするが、
エンタメとしてはこれが正解でしょう。


中盤以降、主人公たちは暴徒が跋扈する世界へと変貌してしまった
東京の街を、さらには日本の各地を駆け巡る話になっていく。

ともすれば悲観的で暗い雰囲気に陥りそうになるのだけど、
それを救っているのが灘城小梅(なだしろ・こうめ)ちゃんだ。

”web万博”「日本館」のマスコット・ガールに選ばれた女子高生で、
弱冠16歳ながら元気溌剌、黙っていれば美人なのに、口を開けば
(天然なのか狙ってるのか分からないが)突飛な言動で周囲を振り回す。

物語の序盤で、登場早々からなぜか暉くんにはやたら懐いてくる。
後半になって、深刻なシーンが続くようになっても
彼女だけは変わらずにあっけらかんとギャグをかましてくる。
そのギャグが笑えないものばかりなのが玉に瑕なのだが(笑)。

 もっとも、かなり ”くせの強い” お嬢さんなので
 好き嫌いはかなり分かれるかも知れない。
 (私も彼女のキャラに慣れるまで時間がかかりました)

株式とかITとかの専門用語も出てくるけど、あまり難しく考えずに、
暉くんと小梅ちゃんのラブコメと割り切って読むのが、
本書を一番楽しく読む方法なんだと思うよ。


作中で発生する大恐慌の背景には、
行き過ぎた経済至上主義や進み過ぎたIT技術があるんだけど、
中盤以降、それらに背を向けた生活様式を選んだ人々も登場する。

ただまあ、この手の現代文明を批判的に描こうとする作品には
よく出てきそうな類型的なものに留まってるように思う。
”自然に還れ” ば全て丸く収まる、ってわけでもないだろうし。

現代文明へのアンチテーゼとして、
この物語には欠かせない存在と作者は判断したのだろうけど、
こういう存在を登場させるのならば、
もう少し新しい切り口のものがみたかったなぁ。

nice!(3)  コメント(3) 
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mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-05-22 20:51) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-05-22 20:51) 

mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-05-22 20:52) 

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