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プロジェクトぴあの (上下) [読書・SF]


プロジェクトぴあの 上 (ハヤカワ文庫JA)

プロジェクトぴあの 上 (ハヤカワ文庫JA)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/03/18
  • メディア: 文庫
プロジェクトぴあの 下 (ハヤカワ文庫JA)

プロジェクトぴあの 下 (ハヤカワ文庫JA)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/03/18
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

1962年公開の東宝特撮映画『妖星ゴラス』。

地球の5000倍の質量を持つ星・ゴラスが
地球と衝突するコースで接近してくる。
人類は南極に巨大な核融合ロケットを建設し、
地球を動かして(!)滅亡の危機から逃れようとする・・・
という、まさに驚天動地のストーリーのSF作品。

この作品に感動/感激した作者・山本弘が執筆したのが
21世紀版リメイクとも言うべき『地球移動作戦』だ。

これについては10年ほど前に記事に書いたので、
このblog内で検索していただければ読めると思うが、簡単にまとめると


2075年、太陽系から1200億kmの地点で
謎の新天体シーヴェルが発見される。
2083年、探査船から送られてきたデータによって判明したのは、
シーヴェルは地球の620倍の質量を持つこと、
24年後に地球から42万3000kmの地点を通過すること、
そして、その接近によって地球環境が壊滅的な打撃を受けること。

空前の危機を前に人類は総力を結集し、空前の規模のプロジェクト、
〈オペレーション・アースシフト〉を開始する・・・


地球自体を動かしてシーヴェルの接近から逃れようという大筋は同じだが
当然ながら地球にロケットをつけて動かそうなんて荒唐無稽な設定では
20世紀ならともかく、この現代では受け入れられないだろう。

代わりに地球を動かす方法として登場するのが、
超光速粒子タキオンを用いた推進システム ”ピアノ・ドライブ” である。
もちろん架空の技術だが、仮にも地球みたいな超大質量の物体を
動かすんだからね、これくらいの大法螺は必要でしょう。

本書『プロジェクトぴあの』は、この『地球移動作戦』の前日譚であり
”ピアノ・ドライブ” の開発者・結城ぴあのの物語だ。

 もっとも、ストーリー上のつながりはないので本書単独でも楽しめる。
 むしろ、『地球移動作戦』に登場する様々な技術やアイテムの
 原型なども登場するので、これから『地球ー』を読もうという方は
 本書を先に読んでおくとなおいっそう楽しめるかも知れない。
 (読んでなくても十分楽しめるけどね。私がそうだったし)


語り手となる貴尾根(きおね)すばるは、女装を趣味とする男子、
私はこの種のカルチャー(笑)には疎いんだが、
いわゆる ”男の娘” というものですかね。
(文庫版下巻の表紙イラストの ”女性” が彼だと。うーん)
もっとも、外見が女性なだけで、メンタリティは普通の(?)男子だが。

2025年7月のある日、すばるは秋葉原の電気街で
電子部品を大量に箱買いしている少女と出会う。
彼女こそ本書のヒロイン・結城ぴあのだった。
(文庫版上巻の表紙イラストの ”アラレちゃん” みたいなお嬢さん)

アイドルグループ<ジャンキッシュ>の一員という顔を持つ
ぴあのだが、わずか17歳にして科学に関する膨大な知識と
桁外れの才能を有する、突然変異的な超天才だった。
自宅を改造した ”研究室” では様々な実験を日夜行っている。
その研究費を稼ぐためにアイドル活動をしているのだ(おいおい)。

アイドルとしては ”その他大勢” だったぴあのに
スポットライトが当たるときが来た。

自称「天才科学者」・塩沼は、そのイケメンぶりもあって
マスコミの人気者だった。その彼が ”私が発明した” と称して
TV局のスタジオに持ち込んできた ”真空エネルギー抽出装置”
なるもののカラクリを、生放送の中でぴあのが暴いてしまったのだ。

これをきっかけに一気に彼女の知名度は上がり、
”結城ぴあの” はトップアイドルへの道を歩み出す・・・


なんといってもヒロイン・ぴあののキャラが秀逸。
彼女の目標は、アイドルとして大成することでも、
科学の世界で名を残すことでも(結果的に残るのだけど)ない。

物語の中盤、彼女は既存の理論を超越した、
画期的な超光速粒子推進システムである
ピアノ・ドライブの開発と実用化に成功するのだけど
それすら彼女の最終目標ではない。

彼女の願いは、宇宙へ行くこと。
それも月や火星なんて近場ではなく、はるか太陽系を越えて
恒星世界を目指して地球を飛び出すこと。
ピアノ・ドライブの発明さえ、その目的実現のための
ワン・ステップでしかない。


本書は一人の天才の伝記小説であるのだけど、それだけに納まらない。

背景となるのは、AIの進歩・VR技術の普及によって
バーチャル・アイドルが広く受け入れられるようになり、
生身の肉体を持つリアル・アイドルとの ”競合” が始まった時代。

それを示すのが、「ぴあの vs メカぴあの」のエピソード。
ぴあのの歌声の完璧な模倣を可能にした、究極のボーカロイドとも言える
”メカぴあの” とのジョイント・コンサートは上巻のヤマ場となる。

”生身のアイドル” としてのライバル、青梅秋穂(おうめ・あきほ)も
随所に登場して、ぴあのと丁々発止のやりとりをするのだが
二人の関係が、いつしか対立を越えて友情めいたものに
変化していくあたりも楽しい。


語り手のすばる君は、常にぴあのの傍らにあって、
彼女のサポートに徹する役回りなのだけど、時が流れるにつれて
彼の中にはぴあのに対する特別な感情も育っていく。

しかし彼女の ”愛” は常に宇宙に向けられていて、
地上の人々に向けられることはない。
本書は、宇宙に ”片思い” をした少女が
その ”愛” を貫いていく物語でもある。


結城ぴあのという特異なキャラクターの魅力で一気に読ませる、
一人のアイドルのビルドゥングスロマンであり、
ハードSF(専門用語が頻出するけど、理解できなくても大丈夫)であり、
新技術が世界を変えていく様子を描いたシミュレーション小説でもあり、
(すばる君からすれば)切ないラブ・ストーリーでもある。


最後に悲報がひとつ。
「あとがき」によると、本書『プロジェクトぴあの』は
山本弘氏による最後の ”ハードSF” になるのだという。

その理由はここには書かないけど
(知りたい人はネットで調べてください)
たいへんショックではあります。

でも、今までたくさんの面白い小説を読ませていただいたことには
お礼を言いたいと思います。
ありがとうございました。

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mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-05-02 23:50) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-05-02 23:51) 

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