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天冥の標Ⅹ 青葉よ、豊かなれ [読書・SF]


天冥の標X 青葉よ、豊かなれ PART1 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標X 青葉よ、豊かなれ PART1 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 小川 一水
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/12/19
  • メディア: 文庫
天冥の標Ⅹ 青葉よ、豊かなれ PART2 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標Ⅹ 青葉よ、豊かなれ PART2 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 小川 一水
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/01/22
  • メディア: 文庫
天冥の標X 青葉よ、豊かなれ PART3 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標X 青葉よ、豊かなれ PART3 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 小川 一水
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/02/20
  • メディア: 文庫
評価:★★★★★

大河SF「天冥の標」シリーズ、第10部にして完結編。
およそ10年をかけて、全17巻にわたって描かれた大長編も、
ここで感動の大団円を迎える。


考えてみると、このシリーズは少女イサリの物語だった。

第6部で〈救世群〉議長の娘として初登場し、
第7部では出番がないけど物語世界の中には存在していたはずだし
第1部と第8~10部では出ずっぱりである。
人外であるラゴスやノルルスカインを除けば、
最も出番の多かったキャラだろう。

作中時間では300年以上経っているけど、
彼女の体感時間は2~3年くらいじゃないかな。
彼女の ”3年間” がこの物語の根幹であり、
第2~5部はその背景を描いているともとれる。
(それぞれちゃんと長編SFとして成立しているけど)

不治の病の保菌者として〈救世群〉居留地に生まれ、
生態系保護用スペースコロニーにでかければ
迷子になって凍死しかけて(おいおい)、
それを助けてくれた男の子にときめいて(笑)。
しかし、強硬派の妹は人類(非染者)を滅ぼしにかかり、
しかもそれはほとんど成功してしまう。
さらには異星人の技術によって異形の甲殻体へと変貌させられてしまい、
そして300年の時を超え、助けてくれた男の子の子孫と
巡り会ったのもつかの間、そこもまた戦場となり、
何度も死線を超えるような危機を超えていく。
最後には太陽系から200光年も離れた宇宙の彼方で
妹と因縁の決着をつけ、異星人の団体さん(笑)とファースト・コンタクト
(カルミアンを入れたらセカンド・コンタクト?)を果たし、
壮烈な宇宙戦争の末、ついには超新星爆発に巻き込まれるという・・・

ひとりの少女の辿る、愛と悩みと苦しみに満ちた波瀾万丈の日々。
そんな中でも、最後まで希望を失わなかったヒロインの物語だ。


先走ってしまった。第10部の内容に入ろう。

情報知性体ミスチフによって操られたドロテア動力炉によって
はるかカルミアンの故郷であるふたご座μ(ミュー)星まで
移動してきたメニー・メニー・シープ(MMS)。

女王ミヒルを駆逐し、ドロテアのコントロールを手に入れたMMS人は
ついに《救世群》との和平を成し遂げるが、
今度はカルミアンの母星、惑星カンム近傍に集結した
”超銀河団種族”(異星人の集まり)の巨大艦隊と対峙することに。

一方、カルミアンの女王オンネキッツは、迫りつつあるミスチフを
殲滅すべく、ふたご座μ星を人工的な超新星爆発に導こうとしていた。

 この宙域に集結した異星人知性体の中では、
 (ノルルスカインとミスチフを除いて)
 カルミアンがいちばん科学技術が進んでいるみたいだ。

しかしそれは、周囲数十光年の恒星系の生命をも危機に陥れてしまう。
(もちろんMMSだってひとたまりもない)
超銀河団種族の目的は、それを阻止することだった。

〈二惑星連合軍〉(2PA)は ”超銀河団種族” と戦端を開くが、
ラゴスを中心とした使節団は ”超銀河団種族” との意思疎通に成功する。
しかし、ミヒルとその残党を掃討する戦闘中に
ミスチフの本体はドロテアから脱出し、惑星カンムの
超新星化制御システムに入り込み、それを乗っ取ってしまう。

かくして、すべての災厄の根源であったミスチフを滅ぼすべく、
MMS人、《救世群》、カルミアン、2PA、そして ”超銀河団種族” 、
この宙域に集まったすべての生命体・勢力による
ミスチフへの総攻撃が開始されるが、ふたご座μ星が
超新星爆発を起こす時刻も刻々と迫ってきていた・・・


完結編だけあって、最終決戦はオールスターキャストである。
イサリ、カドム、アクリラのメインキャラ3人組をはじめ
名のあるキャラクター総動員でクライマックスを盛り上げる。
〈倫理兵器〉まで登場して大活躍するんだからもう(笑)。

そして、それぞれのキャラクターの着地点も描かれる。

人間に奉仕する存在として創造された〈恋人たち〉。
それに疑問を抱いたラゴスの、新たな選択も描かれる。

ミスチフによって体を作り替えられてしまい、
生命の危機に陥ったアクリラにも意外な未来が与えられる。

有史以前から人類を見守ってきたダダーのノルルスカインも、
最終決戦ではついに表舞台に登場し、ミスチフと対決する道を選ぶ。

そして、イサリとカドムにも・・・


SFとしてのつくりも骨太だ。
”超銀河団種族” を構成する異星人の生態や思考・価値観、
カルミアン女王の正体がマイクロ・ブラックホールを利用した
意識の集合体だったりと、想像力の限界に挑戦するような描写が続く。
このあたりは「SFを読む楽しさ」を思い出させてくれる。


ミスチフがばら撒いた冥王斑ウイルスによって
人類は2つの勢力に引き裂かれ、それが800年にわたる確執を生む。

冥王斑ウイルスがなくても、もともと人類は国家や民族や宗教や
なんやかやと理由をつけて差別や対立を生んできた。
21世紀を迎えてもそれはいっこうに無くなる気配を見せない。
「人間とはそういうもの」なのだろう。

本書でも、冥王斑ウイルスは克服されたけれども、
人間のあるところ、また新たな差別と対立が発生していくのだろう。
それでも、未来は今よりもほんの少しはいいものになるはずだ。
それを信じてイサリやカドムたちは生きていく。

雄大で豊穣な物語を読む楽しみも、存分に堪能させてもらいました。
間違いなく、ここ数年で読んだ中で最高のSFでした。


・・・とまあここまで書いてきたんだが、この記事を書いている現在、
世界は新型肺炎を引き起こすコロナウイルスCOVID-19で大騒ぎである。


(今のところ)致死率が2~3%ほどのウイルスに対して
この反応なんだから、「天冥の標」の冥王斑みたいな
致死率95%なんてウイルスが登場したら、
それだけで人類文明は崩壊するんじゃないかなぁ。
ちょいと心配になった今日この頃。

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コメント 3

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-03-01 00:56) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-03-01 00:56) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-03-01 00:57) 

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